睫毛軍隊

睫毛が抜ける。しかも右の睫毛だけが抜ける。ばさばさと抜ける。
ここ数日、お化粧をするとき、お化粧をリムーブするときなどに睫毛が数本抜けるのです。
ただでさえ左右の眼の大きさが違うのに、こうなってしまってはますますとんちんかんなことになってしまう。今、私の右目はとても小さい。
左目睫毛は大人しくみっちりと生え揃っているにもかかわらず、右目睫毛は今みすぼらしいやさぐれ風情でそこにある。私にはこれがどうも、右目の抵抗に思えてならないのです。
「毎日毎日、こんな拷問耐えられない。ならばいっそこの身を投じて反骨精神をあらわにするより他なるまい。ええい」
という風に。
頬に乗っかる睫毛を、コットンの上に散る睫毛を見ては、己の屍をもって私のワンマンなやり口を否定されているのではないだろうかと心がざわつきます。
というのも、私の睫毛はたいそうな下向き具合で生えていて、ビューラーの力とこれ以上ないカール力のマスカラの力を併せてようやく少し上向きになるのです。睫毛にしてみればとんだストレスであることは疑いようがありません。

そうなると、左目睫毛は一体どういう了見なのだろうか、とまたしても心がざわつきます。
「ばかな右目睫毛。そんなことをしてもこの暴君には分かるまい。こんな痴態をさらしながら、今はただ耐えるときであることよ」
というところか。
と、ここまで書いて、左眼を少し擦ったらば、指先に睫毛が付いている。

もう、謝ればいいのか開き直ればいいのか分からない。でも謝ったところでマスカラを止めるわけにはいかないし、となればやっぱり開き直るしかないんだけども。
私の目の淵に生えた運を嘆いて、諦めてもらうよりしょうがない。

ああ、なんかどうして戦争がなくならないのか分かったような気がしてしまったよ。
そういうことかー。