天王寺録その2

どうしてこんなに人が多いのか。混乱するほど人が多かった。
休日とは言え多かった。
けれどこの雑踏の中で私よりうんと歳をとったおばあさんや、私よりうんと小さい女の子が果敢にも暮らして、電車に乗ったり、買い物をしたりしているのね、と思うとすごく自分が弱虫のような気がした。
まだ若いのにこんな弱気ではいけないな、と思いながら電車に乗って座席に腰掛けるとペアシートのお隣におばさんが物凄い音を立てて落っこちた*1
落っこちたおばさん、カチカチとニンテンドーDSに興じている。
タッチペンを巧みに使いこなし夢中で画面を睨んでいる。
隣で大人しく本を読んでいてもおばさんのニンテンドーが気になる。
時々、何かが上手くいったらしいめでたい感じのサウンドが流れてなんとなく「よしよし」と思ったりする。

降りるべき駅が近付いて、おばさんごめんねと立ち上がっておばさんの膝元をすり抜けようとしたそのとき、おばさん画面を睨むその目で私を思い切り睨んだのです。
すごく挑戦的で刺すような眼だった。
おばさんもここで降りたかったようで、でもニンテンドーに夢中で気付かず、自分も降りるべき駅で隣の小童が自分の愉しみを邪魔するようにしかも先に降りようとしやがったことにきっと腹が立ったんだろう。
と一応解釈はできたものの。

でもやっぱりこわかった。
しばらく住んだ都会だけれどもう住める気がちっともしない。
弱虫でいいんだ。

*1:彼女は多分座ったつもり。でも私、引力を感じたのです。