逃避ブーム

にっちもさっちも行かないことがあまりに多いので、逃避に次ぐ逃避。
逃避した先には、麦と稲の穂と、小さい川と、実のなる木があって、小さい怪我もしないし、たくさん食べてもお腹はすこやか、私はなにか楽器*1が弾けて、それを奏でてのびのびと歌を歌う。
近所に太った品の良いお婆さんが住んでいて、遊びに行くと焼き菓子*2を振舞ってくれる。
帰りしなに黒スグリのジュースを持たせてくれて、年中いつだって、「お腹を冷やさないようにしなさいね」と言ってくれる。
私はきっとパンを焼くのが上手で、お婆さんに焼きたてのパンをお返しに差し上げる。
「あなたのパンは島で一番よ、ふふふ」なんて言われたりする。
おや、私は島で暮らしている模様。


島の祭りは毎年夏の初め。
祭りで娘たちは自分で編んだ籠にお菓子を詰めて配り歩く。
今年も祭りに向けてそろそろ籠を編み始めなくてはならない。
島の女たちは皆、物心が付いた頃から籠編みを覚えるが、私は幼い頃に親と生き別れているので籠編みがあまり上手くない。
なので、お婆さんに毎年あれこれ教えてもらいながら何とかこしらえる。
私は毎年祭りに現れるアイスクリーム売りに恋をしている。実は。
異国の香りがする黒髪のアイスクリーム売りに今年こそ綺麗な籠で菓子を渡したい。

祭りに向けて私は今とても忙しい。
ああ、忙しい。

現実に振り回されている暇なんて無いのです。

*1:小さい弦楽器。

*2:洋酒をたっぷり吸ったドライフルーツの。