“眼鏡を外すと美人だったっていうアレ”に何か名前を設けてはどうだろうか

遡ること2日前。

使い古したツーウィークのコンタクトレンズの限界を感じ、重い腰をよいしょとあげてかかりつけの眼科へ行ってまいりました
待合室には平日とは思えない人の数。
膝の上で開いたOL的小道具CanCamに目を落とすことなく、人間観察に余念がないわたし。
ふと気がつくと入り口付近に不思議な雰囲気の女子が立っていたのでした。
女子はまぁるい眼鏡をかけて、背中には大きなデイバッグ、足元は靴下オンにクロックス。そして両の手でしっかりとデイバッグの肩紐を握り締めています。
年の頃は17〜8と言ったところでしょうか。
眼鏡女子はなんごとかを小さな声で、とても丁寧に、受付の少々派手目の肉感的な女子に訴えます。
肉感的女子は声を荒げて「基本的には無理です」そして無表情。
「おお怖い。これは学生時代は弱いものいじめが好物だったタイプに違いない」
恐れをなしてちらりとCanCamに目を向けながら、それでも二人の会話に耳をそばだてていると、どうやら眼鏡女子は持ち合わせがないが、今日コンタクトレンズがほしい様子。そこで「明日足りないお金を持ってくるというのは……」と肉感女子に訴えたようです。
眼鏡女子が気になって仕方がないのに、無情にも看護婦が能天気に私の名前を呼んでいます。
「あぁんっもぉうっ!」と地団太を踏みたいのをこらえながら大人しく診察室に入りました。
コンタクトが汚い、という冷淡な診察を受けてほんの少し落ち込んで暗い診察室からすごすごと歩み出ると、なんとなんと、眼鏡女子が視力検査を受けているではないですか。
「まぁっ!肉感に勝ったのね!!おめでとう!これであなたも明日から眼鏡とさよならよ!明日からはその重たげなマッシュルームカットもカエラちゃん風ボブに見えること間違いなしだわ!!」
キスアンドクライのコーチの気分で抱きついてやりたい衝動に駆られますが、今しがた医者に叱られた身分でそんなことはできません。
看護婦さんにあれこれ良くしてもらって恐縮している眼鏡女子。思わず頬が緩みます。
因みに私は、「眼病になっているので、今回コンタクトは購入できませんので」と緩んだ頬で少し悲しい宣告を受けていました。


会計を済ませてエレベーターホールに行くと、そこには眼鏡女子が一足先に、肉感ではない受付の女性と一緒に立っていました。
眼鏡女子は水森亜土的タッチのイラストが描かれたお財布を大切に握りしめて、郵便局の場所を熱心に聞いています。
「すぐにお金を持ってきます!」なんて嬉しそうな笑顔!!
眼鏡女子はエレベーターを降りると勢いよく夜の街へ走り出してゆきました。
彼女の前途を祝したい気持ちでいっぱいのわたしは因みにですが、眼鏡生活3日目です。